精神科学教室 活動報告

第28回日本サイコオンコロジー学会に参加しました

2015.10.21

平成27年9月18日・19日と広島で開催された第28回日本サイコオンコロジー学会と、20日に併催されたサイコオンコロジー研修セミナーのうち「精神腫瘍医コース」に参加してきました。今回、この学会に参加することにしたのは、今後ますますこの分野の重要性が高まる見込みである半面で医局内での取り組みが不十分と感じるところがあり、しかも私個人は全くの門外漢なのでまずは勉強をと思い立ったからでした。実際に参加してみると、臨床心理士や看護師と思われる女性がかなり多く、他職種で行われている領域であることが伺われ、またそれを反映してか実践的な内容のプログラムが充実していてためになると感じられました。しかし、それと裏腹というべきか、ポスター発表などを見ると学問としてはまだまだ不十分という印象が強く、分野そのものとしてもこれから発展しなければならない状況であることが伺われました。2015_t10.jpg

 

以下では、参加したプログラムごとの感想・印象を記します。

1日目

教育講演2「困っていませんか? がん患者の精神・心理的アセスメントと記録の仕方」

 アセスメントやカルテ記載の仕方についての基本的な話。「体調→睡眠・食欲→日中の気分→心配事」の順に尋ねて、「身体症状→精神症状→社会経済的問題→心理的問題→実存的問題」の順にアセスメントする、「専門用語を用いずに明確な記載をこころがける」、「ケア提供者が患者をケアしたいという気持ちになれるように記録を書く」など、極めて実践的で参考になるポイントがあった。

 

シンポジウム1「臨床で役立つ最新必読文献30選―忙しい医療者のために―」

 不眠、低活動型せん妄、うつ病の3つについて、最新文献を基にしながらエビデンスを紹介。せん妄について色々な評価尺度が存在することなどを知ったが、それ以上に、普段問題にしている臨床活動に対してこれだけの研究が展開されていることに改めて感心・反省。

 

2日目

シンポジウム6「がん患者の家族ケア」

 家族療法の立場で発表された渡辺先生の話が実は学会を通して一番面白かったが、サイコオンコロジーに対してこのような心理学的なイメージを持ってしまうのは危険かも、とも思った。角川先生の発表での「患者・家族と医療者は相互に作用しあう1つのシステム」というポイントなども有益と感じた。

 

事例検討2「医療者間のコミュニケーションと連携のあり方を考える」

 どうやらどこの病院でも医療者間のコミュニケーションと連携には苦労していそうだ、と思わされる話で、「電話やカルテ上のやり取りではなく、面と向かって話をすることが大事」「患者さんのことを第一に考えて、一緒に考えてもらえるよう下手に出る」「人々は“チームワーク”に異なった意味を託して魔法の解決策を期待している」などなど、臨床現場からでないと絶対に出てこないようなポイントが色々聞けた。コミュニケーションと連携で苦労するのは元来普遍的な現象なのではと思えてくる。

 

シンポジウム7「向精神薬まるわかり徹底解剖」

 睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬の4つについて基本的な話。元々知っていることばかりではあったが、最新の情報まで含めた知識の整理に役立った。

 

3日目

サイコオンコロジー研修セミナー・精神腫瘍医コース

 「否認」と「認知症合併」の2つの模擬症例を対象としたグループディスカッションと、それに関連した講義で構成される研修会。少人数体制で、各グループにファシリテーターがつくのでかなり能動的な参加が求められる。精神腫瘍学の第一人者である先生方にも身近に接することができ、何となくこの分野の雰囲気が伝わってきたのも有益であった。

栃木 衛

第37回日本生物学的精神医学会でシンポジウムを行いました。

2015.09.24

第45回日本神経精神薬理学会と合同で開催された第37回日本生物学的精神医学会でシンポジウムを行いました。テーマは「地下鉄サリン事件から20年:被害は過去のものとなったのか?」で、ラインナップは以下の通りでした。2015_t11.jpg

 座長:奈良医大・岸本先生、東大・佐々木先生

 ① サリン事件被害者の精神症状             (昭和大・岩波先生)

 ② 地下鉄サリン事件:脳の構造・機能への長期的影響(奈良医大・安野先生)

 ③ サリンによる神経学的後遺症             (NCNP・菊地先生)

 ④ 湾岸戦争病からみたサリン後遺症(栃木)

 ⑤ 被害者フォローの在り方を考える           (日本医大・大久保先生)

 同時並行で他にも魅力的なシンポジウムが多数開催されていたせいもあり、最後はかなり少人数の会場となってしまいましたが、「20年経過してもサリン後遺症は未だ現在の問題であり、今後も社会啓発に努めながら医学的解明の努力を続ける必要がある」という理解でまとまったように思われました。シンポジストの先生方と、サリン後遺症の診断基準の策定を軸に今後の研究を進めていくことを話し合いながらの散会となりました。

 栃木 衛

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