池淵教授の談話室
こんにちは。ようこそお部屋にお越しくださいました。
香り豊かなコーヒーはいかがですか。
窓際にたくさんの植物と、
我が家のいたずら猫の写真が飾ってあります。
ゆっくりくつろいでいってください。
私たち帝京大学精神科では、より良い臨床と、未来に役立つ人材育成と、質の高い治療を目指す臨床研究を行っています。ここでは池淵がここ1,2年、研究費をもらって取り組んでいる臨床研究を4つ紹介します。いずれも面白くて役立つ取り組みだと自負しています。
ぜひたくさんの若い人に興味を持っていただき、一緒の仲間で活動していけたらと思っています。ぜひお部屋に遊びに来てください。レスポンスをお待ちしています。
「臨床研究Ⅰ」地域生活サポートチームによるアウトリーチ・認知機能リハビリテーション・就労支援
精神科を受診される方々の話を聞いていると、診断をつけて治療についての説明を行い、
精神療法を行って投薬するという、診察室の中だけの治療では不十分であると痛感します。それは職場や家庭の中に様々な困難がみられる場合です。精神障碍者の生活の質はまだまだ貧しく、その面でも生活支援が必要で、家族の皆さんが「親亡き後」を心配されることはとてもよく理解できます。そこで外来で、必要があれば生活しておられる場に出向いて支援を行うアウトリーチサービスや、パソコンを使って生活していく力を高めるトレーニングである認知機能リハビリテーション、障害があっても働けるようにサポートする就労支援を行っています。人生に希望を持っていただけることが目標です。
*詳しくはパワーポイントファイル「外来におけるアウトリーチサービス」を見てください。
「臨床研究Ⅱ」認知機能リハビリテーション専用・オリジナルソフトの作成
さまざまな精神障害、特に統合失調症では、注意、記憶などの認知機能の障害があり、そのために日常生活や仕事や学校がうまくいかなくなることが知られています。認知機能リハビリテーションは、パソコンを使った認知機能を改善するためのトレーニングで、改善効果がこれまでの研究で報告されています。私たちのデイケアでも、認知機能リハビリテーションを受けた後、仕事に就いた人たちがいて、元気に会社で活躍しています。認知機能リハビリテーションに使うソフトが日本ではまだ普及していないために、私たちは専用ソフトの開発に取り組んでいます。面白いソフトですので、ちかじか公開する予定です。
*詳しくはパワポイントファイル「認知機能リハ専用ソフトの開発」を見てください。
「臨床研究Ⅲ」社会機能を測定するツールの開発。
いろいろな精神障害では、人と付き合ったり、家族と協力したり、仕事をしたりするなどの社会生活の能力が障害されてしまいます。そのためにいろいろなストレスがかかりやすくなり、その結果症状が悪化する悪循環になりやすいのです。症状の改善だけではなく、社会生活の能力向上が大切なのですが、そもそも社会生活能力って何? という疑問を持たれる方がおられると思います。これまでの研究で、社会生活能力をはかるための尺度が開発されてきましたが、世界標準になるものはまだないのが現状です。そこで測定ツールの開発に取り組んでいます。たとえば障害年金をもらうために診断書が必要ですが、社会生活能力が正確に測定できれば、こうしたことにもとても役立つと思います。
*詳しい研究の様子は、ワードファイルの論文「統合失調症の社会機能をどう測定するのか」をご覧ください。専門的な論文で少し難しいかもしれませんが、現在の学問の到達段階について書いています。
「臨床研究Ⅳ」社会的認知を改善するプログラムの効果検証。
臨床研究Ⅲで書いたように、人付き合いがうまくいかなくなることも、大きな社会生活上の問題になってしまいます。統合失調症では、相手の表情や感情がわかる、相手の意図を把握する、状況を理解してその場にふさわしい行動をしていくこと(社会的認知)、などがうまくいかなくなります。わたしたちは社会的認知の改善を図るトレーニングの研究を進めています。未だスムーズに人と付き合える、とまではいきませんが、少し手助けになるのではと感じています。
*詳しい研究の様子は、ワードファイルの論文「社会的認知:脳科学と認知行動療法の架橋」をご覧ください。専門的な論文で少し難しいかもしれませんが、現在の学問の到達段階について書いています。
精神科学教室 主任教授
第2回Jcores研修会
2016.08.31
昨年、私たち研究グループが開発した認知機能リハビリテーションツールのJcoresを正しく使用するための第1回Jcores研修会を開きましたが、参加希望者が多くいらっしゃいましたので、2016年8月28日に第2回Jcores研修会を帝京大学にて開催いたしました。
今年も希望参加者が多く、52施設93名の参加となりました。
「統合失調症の人の社会参加はどう向上していくだろうか」 臨床精神医学 45(8):1033 - 1040, 2016
2016.08.25
「統合失調症の人の社会参加はどう向上していくだろうか」
池淵 恵美
抄録:近年は治療法の発展もさることながら社会制度・資源の整備がすすみ,社会参加は大きく変化した。したがって近未来に統合失調症の社会参加がどう変化していくのか見通すのは困難である。これまでの心理社会的治療のエビデンスはいずれもあくまで短期間の介入効果研究が中心であるので,長期的な転帰についてビッグデータを利用するなどによる医療サービス全体の実証的な検討が求められる。効果の指標としては,サービスを受ける人たちの視点を第1にすべきであろう。またわが国の医療現場で実装が可能な包括的プログラムの開発や,個別化して実施する技術の開発などが課題である。さらに初発の人・生活の障害が目立たない人,再発を繰り返す・生活の障害が明確である人,思春期の精神的危機(早期介入),長期入院している(た)人それぞれへの社会生活支援における課題について述べた。医療からの自律や主体価値の確立,仕事や結婚など生活支援の視点が重要と思われる。
臨床精神医学 45(8):1033 - 1040, 2016