精神科学教室 医局員の声

きみあきの休み時間12th すこやかにと命ぜられ

2017.07.31

「眠る直前に音楽を聴くと睡眠の質を下げる」という説がある。多分、あると思う。交感神経系を刺激することと関係があるのかしら。自分は寝る前に音楽を聴く派で、なおかつ朝の寝起きが悪いので、この説が気になっているのだろう。でも、ひとたび眠りについてしまえば、あんまり関係ないんじゃないのか、こんなの。説の結びはたいてい「どうしても聴きたいなら、静かなクラシックをかけましょう」とくる。クラシックが好きじゃない人はどうする。だいたい、何をもって静かと感じるかは人によって違うのだから、寝る前にスリップノットを聴こうが、松任谷由実を聴こうが、小川のせせらぎを聴こうが、当人にとって耳心地が良ければ、どれでも構わないだろう。個人的には小川のせせらぎがいちばん交感神経が亢進しそうだ。夜中にぴちゃぴちゃと水の音。ひぃー。それにしても、寝る前にしちゃいけないことが多すぎやしないかね。やれスマホするな、やれタバコ吸うな、やれ酒飲むな。でも風呂は良い、とかさ。しゃらくせえ、風呂かよ。どれ、風呂ね。よし風呂に入って、麦茶飲んで寝よう。

きみあきの休み時間11th 出張

2017.07.27

外の病院に勤めに行くことを外勤(がいきん)と呼び習わすが、北海道にいた頃は「出張」と言った。「バイト」とも言っていたような気もするが、それだとちょっと露骨な感じである。三、四ヶ所の「出張」先があったけれど、北海道という土地柄のせいなのだろうか、先方の病院長だとか、医局長らしき人と挨拶を交わしたことがない。地方へ行けば行くほどその傾向は強まった。ある病院など、近くのビジネスホテルで寝泊まりしてください、何かあったら呼びますから、というのもあった。(のち、病院内の当直室があてがわれた。それはそうだろう。)守衛から鍵を渡されるだけ、というところもあって、気味が悪いほど静かだった。もしかしたら患者も誰もいないのではないかと疑われた。精神科のように、定時に回診というのがないから、無闇に病棟をうろつくのも憚られた。最も遠い出張先は、旭川から距離にして約170キロの場所にあった。最初は用心して電車で通ったのが、そのうち車で通うようになった。延々と左右に広がる荒地や田畑を見、牛馬の糞の臭いを嗅ぎつつ、国道39号線をひた走った。ある時、私が当直室にいると、えんじ色のスクラブを着てPHSをぶら下げた男が(どこからどう見ても医者だ)、いかにもひと仕事終えてきたという様子で入ってきた。一瞬、目と目があった拍子に、男は、私に向かって「大丈夫です」と言った。何が大丈夫なのか分からないが、見ていると、その男がすべて仕事をやってくれているようだった。私はだんだん不安になってきた。それでなんとなくそばにあった医学雑誌など広げてパラパラやっていたのであるが、その中に「我々を医者たらしめているのは医師免許ではない。白衣を着、医者として振る舞い、医者を演じることで医者になるのだ」という箴言めいたことが書かれてあった。

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