精神科学教室 活動報告

林 直樹(教授)の研究・教育活動の紹介 2013.9~2015.9

2015.09.24

  前回の「研究・教育活動の紹介」の報告からすでに2年余りが経ってしまいました。大学に勤務していながら,情報公開の努力を怠っていたこと,申し訳なく思います。また,私自身にとっても,このような自分の活動を振り返る機会を設けることができなかったこと,残念でした。この報告を機に,今後の有意義な臨床,研究の戦略を練りたいと考えています。(2015.9.20記)

   以下に2013年9月~2015年9月の期間に発表した主要な論文,講演の概要をお示しします。基本的な研究テーマは,これまで通り,境界性パーソナリティ障害,自傷行為・自殺未遂です。さらに,精神科治療一般,精神科治療論にも手を伸ばすことができるようになりました。  

 

  刊行論文の紹介

  ○ パーソナリティ障害・自殺関連行動に関連するもの

 ・原著論文

  林 直樹:総説 境界性パーソナリティ障害の回復過程とライフサイクル.帝京医学雑誌 37(2): 39-47, 2014

  境界性パーソナリティ障害(BPD)の患者さんたちが,ライフサイクルを経る中で経験したことから学ぶことによって,現実的な家族関係や対人関係を築き,彼らなりの目標に向かって人生を歩むことができるようになることを文献的考察から論じました。

   Naoki Hayashi, Miyabi Igarashi, Atsushi Imai, Yuka Yoshizawa, Kaori Asamura, Yoichi Ishikawa, Taro Tokunaga, Kayo Ishimoto, Yoshitaka Tatebayashi, Naoki Kumagai, Hidetoki Ishii, and Yuji Okazaki: Pathways from life-historical events and borderline personality disorder to symptomatic disorders among suicidal psychiatric patients- A study of structural equation modeling. Psychiatry and Clinical Neurosciences 2015; 69: 563–571 doi:10.1111/pcn.12280

  これは,松沢病院自殺関連行動研究のデータから,発生(発症)時期が異なる自殺関連行の要因を並べて,構造方程式モデル(SEM)を作ったところ,モデル適合性の高いモデルを作ることができたという発表です。下の図に明らかなように,BPDが生育史的要因と症状精神障害(symptomatic disorders)を仲介する位置づけにあることが確認されます。また,この図からは,BPDを予防すること,治療することが,自殺患者の治療の要点となることが示唆されています。

2015_h1.jpg

高浜三穂子,林 直樹,五十嵐 雅,今井淳司,石本佳代,徳永太郎,岡崎祐士:自殺関連行動を繰り返して入院した精神科患者の臨床的特徴.精神科治療学 29(8): 1059-1067, 2014

  これも松沢病院自殺関連行動研究のデータに基づいて,既往の自殺関連行動の回数が4回以上と4回未満の二群に分けて比較して得られた所見をまとめたものです。既往の自殺関連行動の多い自殺患者は,自殺のリクスファクターを多く持っていることが確認されました。

 

・依頼原稿論文

林 直樹:パーソナリティ障害 高齢者の精神症状.日本臨床 71(10): 1823-1829, 2013.10

 

林 直樹:境界例(境界性パーソナリティ障害)の非薬物治療.精神科誌特集:境界例再考.精神科 25(1): 28-33, 2014.07

 

林 直樹:実地診療におけるパーソナリティ障害の診断および誤診の特殊性.日本精神科診断学会シンポジウム3 「誤診」.精神科診断学 7(1): 57-63, 2014.09

 

林 直樹:境界性パーソナリティ障害の長期予後.臨床精神医学 43(10): 1457-1463, 2014.10

 

林 直樹:境界性パーソナリティ障害(BPD)はどこに向かうか? 精神医療 76: 48-56, 2014.10

 

林 直樹:治療のゆきづまりについての考察:境界性パーソナリティ障害治療の経験から.こころの科学 178: 67-73, 2014.11

 

林 直樹:パーソナリティ障害概念の歴史 DSM-III以前.神庭重信,池田学編 DSM-5を読み解く,Pp. 138-150,中山書店,東京,2014.12.25

 

林 直樹:第10章 パーソナリティ障害と行動異常.標準精神医学,pp. 259-282, 医学書院,東京,2015.03

 

林 直樹:境界性パーソナリティ障害.金澤一郎,永井良三編 今日の診断指針第7版,医学書院,東京,2015.4.20

 

林 直樹:境界性パーソナリティ障害と自己愛.精神療法 41(3): 364-369, 2015.06

 

林 直樹:境界性パーソナリティ障害と精神的疲労・消耗:精神療法的対応の一つのモデル.精神療法 増刊第2号 現代の病態に対する<私の>精神療法: 179-185, 2015.6.5

 

林 直樹:パーソナリティ障害とうつ病  特集:うつ病の見立てと治療.精神科26(6): 380-385, 2015.06

 

林 直樹:パーソナリティ障害 特集 精神科救急の最新知識 II. 症候・精神疾患に対する対応.臨床精神医学 43(5): 711-715, 2014

 

  その他,下の境界性パーソナリティ障害の家族会と共同して実施した調査の結果をホームページ上で発表しています。

 

林 直樹,松本俊彦,黒田章史,奥野栄子: BPD当事者の家族状況について調査報告.BPD家族会ホームページ (URL: http://seiwa-pb.co.jp/bpd_family/info/investigation_about_the_burden_of_BPD_families_2015.pdf ) 2015.06.22

 

  ○ 暴力に関する論文

・原著論文

Atsushi Imai, Naoki Hayashi, Akihiro Shiina, Noriko Sakikawa, Yoshito Igarashi: Factors associated with violence among Japanese patients with schizophrenia prior to psychiatric emergency hospitalization: A case-controlled study. Schizophrenia Research 160 (2014) 27–32, http://dx.doi.org/10.1016/j.schres.2014.10.016

  この論文では,松沢病院の精神科救急で入院を受け入れた統合失調症患者のうち,暴力が入院事由だった患者420人と年齢・性別・診断をマッチさせた患者とを比較して,暴力的な統合失調症患者の臨床的特徴を抽出した結果が報告されています。

 

・依頼原稿論文

林 直樹:概説:暴力の精神病理と精神療法.精神療法 41(1): 8-14, 2015.02

 

林 直樹:暴力を振るう患者に対する精神療法:医療機関における治療.精神療法 41(1): 19-24, 2015.02

 

  ○ 精神科治療論

・原著論文

林 直樹,細川亜耶,山岸正典,鹿山育子,高見鉄平:統合失調症患者の慢性幻聴に対する認知療法的個人療法の試み.精神医学 55(12): 1173-1181, 2013

  これは,慢性幻聴を訴える2例の統合失調症患者に認知療法的介入を行った結果を報告したものです。

 

・依頼原稿論文

林 直樹:安永浩の精神療法三論文.精神療法 増刊第1号 先達から学ぶ精神療法の世界: 169-178, 2014.5.31

  安永浩先生は,私が精神科医になった時期に教えを受けた先生です。この論文執筆において先生の論文の多くを読み返しましたが,それによって安永先生の偉大さを改めて認識することができました。それは素晴らしい体験でした。

 

  その他,看護スタッフ向けの薬物療法などについての教育用の書籍のセクションや雑誌の依頼原稿を発表しています。

Copyright(c) 2020 帝京大学医学部精神神経科学講座 Inc. All Rights Reserved.